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【団体を比較】DIGNITASとEXITの違い・外国人の受け入れ

穂積 彩花 穂積 彩花 • 更新: • 公開: • 読了約 17 分
目次

スイスの自殺ほう助をめぐって、国際的に知られている団体がDIGNITAS(ディグニタス)とEXIT(エグジット)だ。

両団体は自己決定権を重視する点では共通しているが、活動方針や外国人の受け入れ条件には違いがある。

DIGNITAS(ディグニタス)

1998年設立・チューリヒ州を拠点とする非営利団体

DIGNITASは1998年5月17日に設立された団体で、スイス国外に住む人も会員になることができる。

活動内容は自殺ほう助だけではない。終末期医療に関する相談、患者の事前指示書、緩和ケア、自殺予防、法的な権利擁護なども扱っている。

2024年の活動報告によると、同年末の会員数はドイツ支部を含めて14,996人。医師の支援を受けた自殺ほう助は280件だった。

同団体は、会員のうち実際に自殺ほう助を利用する人は3%未満としている。会員になることと、サービスの利用が認められることは別の問題だ。

EXIT(エグジット)

1982年設立・スイス国内の会員を中心とする団体

EXITは1982年4月3日に設立されたスイスの自殺ほう助団体で、患者の事前指示書の作成支援や終末期の相談なども行っている。

DIGNITASとの大きな違いは、会員資格だ。

スイスドイツ語圏のEXITでは、原則として18歳以上のスイス国民、またはスイスに居住する外国人が会員になれる。日本在住の日本人が観光客として渡航し、EXITのサービスを利用するという形には対応していない。

一方、スイス国内に居住する外国人は、ほかの条件を満たせば対象になり得る。

主要な関係者・団体の役割を整理

名称・制度 主な役割 注目すべき特徴
DIGNITAS 自殺ほう助・終末期相談 海外在住者も会員になれる
EXIT 自殺ほう助・患者支援 原則としてスイス国民・国内居住者が対象
SAMS/SAMW 医療倫理指針の策定 判断能力や耐え難い苦痛などを評価
スイス連邦司法庁 刑事法上の制度説明 刑法115条と積極的安楽死の違いを整理
スイス連邦統計局(BFS) 死因統計の集計 居住者を対象に自殺ほう助の件数を把握
医師 医学的判断・処方に関する責任 判断能力や医学的条件を評価

この関係から分かるのは、スイスの制度が単独の団体によって運営されているわけではないということだ。

法律が刑事責任の枠組みを定め、医師が医学的な判断を担い、団体が相談や支援を行い、行政当局が死亡後の確認を担う。複数の主体が関与する構造になっている。

外国人なら誰でも利用できるわけではない

DIGNITASは外国人を受け入れているが、外国籍であることだけで利用資格が生まれるわけではない。

本人の判断能力、医学的な状況、意思の継続性などについて審査が必要であり、スイスの医師による独立した医学的評価も関わる。

同団体の2026年版案内でも、会員資格と実際の支援を受けるための医学的条件は明確に区別されている。

したがって、「スイスに行けば誰でも安楽死できる」という理解は誤りだ。

【費用と2024年統計】スイス安楽死の料金相場と利用件数

スイス安楽死

スイスの自殺ほう助を調べる際、読者が気になるのが費用と実際の利用件数だ。

ここでは、団体が公表している費用と、スイスの公的統計を分けて整理する。

DIGNITASの費用は7,500〜11,000スイスフランが目安

DIGNITASの費用案内では、準備に関する費用、医師の診察、支援に関する費用、葬儀や行政手続きなどが区別されている。

公表されている費用の目安は次のとおりだ。

費用項目 公表額
申請準備に関する費用 CHF 4,000
医師の診察に関する費用 CHF 1,000
支援に関する費用 CHF 2,500
葬儀関連費用 約CHF 2,500
死亡後の行政手続き CHF 1,000
合計の目安 CHF 7,500〜11,000

この金額はDIGNITASが公表している費用体系であり、ほかの団体にも同じ料金が適用されるわけではない。

葬儀や行政手続きの支援を依頼するかによって合計額が変わる。また、会員登録には別途、入会金220スイスフランと最低年会費80スイスフランが設定されている。

なお、費用には変更の可能性があり、付加価値税も別途扱いとなる。渡航費、宿泊費、同行者の費用なども別に考える必要がある。

EXITの費用体系は会員期間によって異なる

EXITでは、会員期間に応じて費用負担が変わる。

2026年時点の公式会員案内によると、年会費は45スイスフラン、終身会員の一括会費は1,100スイスフラン。

3年以上の会員には、条件を満たした場合の終末期支援費用を団体が負担する仕組みがある。

3年未満の場合には、会員期間に応じて1,100〜3,700スイスフランの費用負担が生じる。

ただし、これはスイス国内の対象会員向け制度であり、日本在住の外国人が同じ条件で利用できるという意味ではない。

2024年の自殺ほう助は1,774件

スイスの利用実態を把握するうえで重要なのが、スイス連邦統計局(BFS)の死因統計だ。

スイス連邦統計局のデータを基にしたスイス保健観測機関(Obsan)の2026年掲載データでは、2024年の自殺ほう助による死亡者数は次のようになっている。




男性
703人
約39.6%


女性
1,071人
約60.4%


出典:スイス保健観測機関Obsan、スイス連邦統計局の死因統計。

2024年の総死亡者数は71,942人で、自殺ほう助による死亡者は全体の約2.47%に相当する。

2023年からの増加は約2.6%。長期的に見ても増加傾向が続いている。

利用者の多くは高齢者なのか

2023年のスイス連邦統計局の分析では、自殺ほう助を利用した人の約91%が65歳以上だった。

また、女性が約60%を占め、がんが背景にあるケースは33%、神経変性疾患が背景にあるケースは11%と報告されている。

この数字から分かるのは、スイスの自殺ほう助が、単純に若年層の自殺問題と同じ性質のものではないということだ。

深刻な身体疾患、加齢、長期にわたる機能障害など、終末期や慢性疾患に関係する問題が大きな割合を占めている。

ただし、統計の対象には重要な限界がある。

スイス連邦統計局の死因統計は、基本的にスイス国内に居住していた人を対象としている。日本など海外から渡航して利用した人は、この居住者統計にそのまま含まれるわけではない。

そのため、1,774人はスイス国内で実施された自殺ほう助の総数ではない。外国からの利用者を含む実際の総数とは区別して読む必要がある。

【日本人の利用と2026年最新動向】海外渡航の現実と法的な課題

スイスの自殺ほう助が日本で関心を集める理由の一つは、日本人の利用例が実際に報道されていることだ。

しかし、スイスで一定の制度が存在することと、日本人が日本国内で同じ行為を行えることは別問題である。

日本人がスイスで自殺ほう助を利用した実例

2021年9月13日、スイスの国際報道機関SWI swissinfo.chは、日本からスイスへ渡航した男性の事例を詳しく報じた。

記事では「Yoshi」という仮名で紹介された男性が、神経系の疾患による身体機能の低下を経験し、スイスで自殺ほう助を受けるまでの経緯が伝えられている。

男性を受け入れたのは、チューリヒを拠点とするDIGNITASではなく、バーゼルを拠点とするLifeCircleだった。

同記事によると、男性は渡航前から団体による審査を受けており、最終的に家族とともにスイスへ向かった。

この報道が示しているのは、日本人にも実際の利用例が存在するという事実だ。

同時に、海外渡航が容易な選択ではないことも伝わってくる。身体機能の低下が進行するなかでの長距離移動、家族との話し合い、外国での滞在など、医学的な判断以外にも多くの問題が関わる。

日本の法律ではどう扱われるのか

日本の刑法202条には「自殺関与及び同意殺人」という規定がある。

他人を教唆・幇助して自殺させた場合や、本人の依頼・承諾を受けて殺害した場合には、6か月以上7年以下の拘禁刑が定められている。

つまり、日本国内ではスイスの刑法115条と同じような扱いにはなっていない。

ただし、日本人が海外で外国の団体の支援を受ける場合、日本の刑法がどこまで適用されるかは、関係者の国籍や行為地、具体的な行為などを踏まえて検討する必要がある。

スイスで合法だからといって、日本人に関係するすべての行為が日本法上も当然に適法になるわけではない。

海外渡航を伴う個別の法律問題については、日本とスイス双方の法律に詳しい専門家への確認が必要になる。

2026年の最新動向:法律の改正よりも制度の適用範囲が焦点

2026年11月時点で、スイスの自殺ほう助制度を理解するうえで注目したいのは、法律そのものよりも、既存の法律をどのような状況に適用するかという議論だ。

2025年9月11日、スイス上院に当たる全州議会は、自殺ほう助に関する全国的な枠組み法を整備する動議を、賛成22、反対16、棄権8で否決した。

一方、年間の件数や利用者の属性などを把握するための統計的モニタリングを求める別の動議は、同年12月1日に国民議会で否決され、実現しなかった。

こうした議論の背景には、2024年にスイス国内で使用された自殺ほう助カプセル「Sarco」をめぐる問題などがあった。制度の透明性や、脆弱な立場にある人をどう保護するかが議論されたのである。

加えて、2026年8月にスイス連邦議会で公表された終末期の法制度に関する議論では、従来の制度では整理しきれていない課題が示された。

特に焦点となっているのが、次の2つだ。

- 判断能力はあるが身体的に最終行為ができない人: 本人の意思は明確でも、身体的な制約によって制度の基本条件を満たせない場合をどう考えるか。
- 事前に意思を示した後、判断能力を失った人: 過去の意思表示を、判断能力を失った後にどこまで尊重できるか。

この問題は、単に自殺ほう助を認めるか否かという議論を超えている。本人の意思、身体的能力、事前指示書の法的効力、医療関係者の責任をどう調整するかという問題だからだ。

2026年8月の議会資料では、スイス連邦政府が終末期の法制度を検討する報告書の提出に関する提案に反対する姿勢も示している。

2026年の議論で見落としてはいけないこと

スイスの制度は、法律が認めているからといって医師や団体が自由に自殺ほう助を実施できるというものではない。

2021年と2024年の連邦最高裁判所の判断をめぐっても、健康な人への薬剤処方や医師の責任について議論が続いている。

2026年の連邦議会資料では、健康な人への処方をめぐる裁判例について、刑事責任が問われなかったことと、医師が無条件に処方できることは同じではないと整理されている。

医師には職業上の義務があり、州の監督当局による行政上・民事上の責任が生じる可能性もある。

また、SAMSの指針は連邦法そのものではないが、医師の職業規範を通じて実務上の重要な意味を持つ。

したがって、2026年のスイス安楽死をめぐる本質的な論点は、合法か違法かという二択だけではない。本人の自己決定権をどこまで尊重し、医療現場にどのような責任と保護の仕組みを求めるのかという問題に移っている。

【よくある質問】スイス安楽死に関するFAQ

Q1:スイスでは安楽死が全面的に合法なのですか?

A1:いいえ。一定の条件を満たした自殺ほう助が認められているのであり、第三者が本人を直接殺害する積極的安楽死は原則禁止されている。

Q2:スイス刑法115条では何が定められていますか?

A2:利己的な動機から他人の自殺を教唆・援助し、相手が自殺を遂げた、または未遂に終わった場合に処罰する規定だ。最長5年の自由刑または罰金刑が定められている。

Q3:スイスでは健康な人でも利用できますか?

A3:刑法115条そのものには終末期という限定がないが、SAMSの医療倫理指針では、健康な人への自殺ほう助は正当化されない。医師による医学的・倫理的な審査もある。

Q4:日本人でもスイスの制度を利用できますか?

A4:外国人を受け入れている団体は存在する。DIGNITASは海外在住者も会員になれる。一方、EXITは原則としてスイス国民またはスイス国内の居住者を対象としている。

Q5:スイス安楽死の費用はいくらですか?

A5:DIGNITASの公表費用体系では、葬儀・行政手続きなどを含めて約7,500〜11,000スイスフランが目安となる。渡航費や宿泊費などは別途必要になる。

Q6:2024年のスイスの自殺ほう助は何件ですか?

A6:スイス連邦統計局のデータに基づく2024年の居住者の死亡統計では1,774人。男性703人、女性1,071人だった。外国在住者はこの統計の対象外である。

Q7:2026年にスイスの安楽死制度は改正されましたか?

A7:2026年11月時点では、従来の基本的な法制度が維持されている。2025年には全国的な枠組み法と統計モニタリングをめぐる議論が否決され、2026年には判断能力と身体的能力の関係など、新たな法的課題が議論されている。

【プロの結論】スイス安楽死を理解するために必要な3つの視点

スイスの自殺ほう助制度を理解するうえで、押さえておきたい要点は3つある。

第一に、合法という言葉の意味を正確に捉えること。

スイスで認められているのは、刑法115条の下で一定の条件を満たした自殺ほう助であり、第三者が直接命を絶つ積極的安楽死ではない。両者を混同すると、スイスの制度を大きく誤解することになる。

第二に、法律と医療倫理は別の役割を持つこと。

刑法115条は利己的な動機による援助を処罰する。一方、SAMSの指針は、本人の判断能力、意思の持続性、医学的な苦痛、代替手段などを重視する。

法律上ただちに処罰されないことと、医師が医学的・倫理的に実施できることは同じではない。

第三に、統計の数字だけでは制度の全体像を把握できないこと。

2024年の1,774人という数字は、スイスの居住者を対象とした統計であり、外国人の利用実態を完全に反映していない。

DIGNITASの280件という2024年の実績も、同団体だけの数字であり、スイス全体の数字ではない。

これらの数字を混同しないことが、実態を正しく理解するための基本となる。

スイスの制度が突きつけているのは、死ぬ権利だけの問題ではない。本人の尊厳、医療の責任、家族の心理的負担、社会的な弱者の保護、緩和ケアや自殺予防の充実など、複数の課題が重なっている。

2026年以降も、判断能力を失った人の事前意思をどう扱うか、身体的な制約がある人の自己決定権をどう守るかという問題は、スイス国内外で議論が続くと考えられる。

スイス安楽死をめぐるニュースを読む際には、「合法になった」「外国人でも利用できる」という見出しだけで判断せず、刑法上の条件・医師の判断・団体の審査・統計の対象範囲という4つの観点から事実を確認することが欠かせない。

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