天皇・皇后両陛下が地方へのご訪問や公務、ご静養の際に利用される特別な列車が「お召し列車」です。1872(明治5)年の鉄道開業以来、日本の皇室と鉄道は深い関係を築いてきました。時代によって車両や運行方法は変化し、現在ではJR東日本のE655系「なごみ」をはじめ、新幹線や一般の特急車両を貸し切って運行するケースもあります。
2026年4月には、天皇皇后両陛下と愛子さまが東日本大震災から15年の節目に福島県を訪問される際、臨時の専用新幹線を利用されました。お召し列車は、昔ながらの菊の御紋章を掲げた豪華客車だけを指すものではありません。明治天皇の時代から続く歴史、御料車と供奉車の違い、E655-1特別車両の役割、運賃や費用の仕組みまで、2026年11月現在の情報を交えて解説します。
【基礎知識】お召し列車とは?現在の定義と一般の特別列車との違い
お召し列車とは、天皇・皇后両陛下が乗車される際に運行される特別な列車のことです。一般の旅客列車とは異なり、皇室のご移動に合わせて運行計画が組まれ、必要に応じて編成全体が貸し切りとなります。
京都鉄道博物館の企画展資料でも、お召し列車は皇室専用の臨時列車として紹介されています。公務に伴うご移動などで利用され、通常の旅客列車とは異なる特別な運行形態を持っています。
お召し列車は専用の車両でなければならないのか
実は、お召し列車に専用車両が必須というわけではありません。
かつては御料車を中心に供奉車や機関車を連結した専用編成が主流でした。しかし、鉄道技術や皇室の移動形態が変化した現在では、一般の特急型車両や新幹線を編成単位で貸し切って運行する方式も採用されています。
例えば、2026年4月6日には、天皇皇后両陛下と愛子さまが福島県を訪問されるため、東京駅から臨時の専用新幹線に乗車されました。特別な御料車を組み込まなくても、両陛下がご乗車になる専用列車として運行されれば、お召し列車と呼ばれます。
つまり、外観の豪華さや菊の御紋章の有無だけで判断するのではなく、誰が乗車し、どのような目的で運行されるのかが本質です。
皇族なら誰が乗ってもお召し列車になる?
ここにも注意したいポイントがあります。
お召し列車という名称は、基本的に天皇・皇后両陛下が乗車される列車に用いられます。皇太子の御身位にあった方の移動では「御乗用列車」という呼称が使われた時代もあり、皇族方が通常の営業列車を利用される場合には、必要な座席を確保する方式もあります。
そのため、皇族の方が鉄道を利用することと、お召し列車が運行されることは、必ずしも同じ意味ではありません。
【運行理由と仕組み】なぜ走る?宮内庁と鉄道会社による特別な運行体制
お召し列車が運行される理由は、主に皇室の公的活動に伴う移動と、ご静養などの移動です。
お召し列車が運行される主な理由
代表的なものとして、次のようなケースが挙げられます。
- 全国植樹祭や全国豊かな海づくり大会などの行幸啓
- 国民スポーツ大会や国民文化祭などの公式行事への出席
- 被災地や地方都市へのご訪問
- 御用邸などでのご静養に伴う移動
- 海外からの賓客などに関係する特別な接遇
例えば、2025年8月には天皇皇后両陛下の須崎御用邸でのご静養に伴い、JR東日本のE655系「なごみ」を使用したお召し列車が東京駅から伊豆急下田駅まで運行されました。
公務だけでなく、ご静養に伴う移動でも運行される点は、一般の人が抱きやすいイメージとは少し異なります。
宮内庁とJR東日本はどのように連携するのか
お召し列車の運行には、宮内庁と鉄道事業者の連携が欠かせません。
宮内庁側は皇室の行程や移動に関する調整を行い、鉄道事業者は使用車両、乗務員、運行ダイヤ、駅での対応などを準備します。必要に応じて警備関係機関や関係自治体との調整も行われます。
通常の営業列車と同じ線路を走る以上、運行には安全性と定時性の確保が大切です。単に特別な車両を用意すれば済むものではありません。
先行列車や予備編成も準備される
2025年8月1日の伊豆方面への運行では、E655系のお召し列車に先立ってGV-E197系による先行列車が運転されました。また、予備列車としてE257系も準備されていたことが鉄道専門メディアで報じられています。
このように、実際の運行では車両の点検や安全確認、万一の場合に備えた準備など、複数の要素が組み合わされています。
なお、「お召し列車が通るときは信号がすべて青になる」という話は正確ではありません。列車は運行計画と信号保安システムに基づいて運転され、前後の列車や通常ダイヤとの調整が行われます。
お召し列車の運行は、鉄道全体の安全を維持しながら特別な移動を実現する、鉄道事業者の総合的な運行管理の一つなのです。
【歴代の歴史】明治天皇から令和まで続くお召し列車の変遷
お召し列車の歴史は、日本の鉄道の歴史とほぼ重なります。
明治時代に鉄道が開業した当初、天皇の移動手段は輿などが中心でした。しかし、鉄道網の整備が進むと、地方への行幸や鉄道開業式への出席などに鉄道が積極的に利用されるようになりました。
明治時代:御料車の誕生と鉄道による地方巡幸
1872(明治5)年、新橋―横浜間で日本初の鉄道が開業しました。この時期から、明治天皇の鉄道利用が始まっています。
その後、1876(明治9)年には京都―神戸間の鉄道延伸に合わせて御料車が製造されました。この車両は翌1877(明治10)年2月5日の京都―神戸間の鉄道開業式で明治天皇が乗車された車両で、現在の鉄道博物館に保存されている初代1号御料車です。
文化庁の国指定文化財等データベースによれば、この車両は英国人技師の指導のもと神戸工場で製造された木製客車です。内装には絹張りや伝統的な装飾が用いられ、当時の工芸技術の高さを伝えています。
なお、1872年の鉄道開業時に使用された輸入客車と、1877年に使用された国産初の御料車は別の車両です。この違いは歴史を理解するうえで重要です。
大正時代:皇室の鉄道利用が制度として定着
大正時代には、天皇の御大典や皇室に関係する儀式などに伴って鉄道が利用されました。
明治期に始まった皇室の鉄道利用は、車両の構成や運行上の取り扱いが整理され、専用の御料車と随伴者用の供奉車を組み合わせる方式が発展していきます。
昭和時代:専用客車の充実と全国への運行
昭和時代は、お召し列車が全国各地で活躍した時代です。
戦後の地方巡幸では、全国植樹祭や国民体育大会などの行事に合わせて列車が運行されました。昭和天皇の地方訪問では、各地の鉄道網が重要な移動手段となりました。
1960(昭和35)年には新1号御料車が製造され、供奉車を組み合わせた1号編成が長く使用されます。
1964(昭和39)年の東海道新幹線開業後は、新幹線も皇室の移動手段に加わりました。鉄道を利用する方法そのものが、在来線の専用客車中心から多様な車両へと変化していきます。
平成時代:一般車両や新幹線の利用が増加
平成に入ると、専用客車を使用する機会は減少していきました。
一般の旅客列車や新幹線を編成単位で貸し切る方式も利用されるようになり、移動の合理性や安全性を重視する形へ変わっていきます。
従来の御料車を中心としたお召し列車から、一般車両を活用するお召し列車へと、その姿が変化した時代です。
令和時代:E655系と新幹線を使い分ける時代
令和時代には、E655系「なごみ」を使用した在来線のお召し列車だけでなく、新幹線や他社の車両を使用するケースも見られます。
2025年8月の伊豆方面への移動ではE655系が使用され、2026年4月の福島訪問では臨時の専用新幹線が利用されました。
歴代の変遷を整理すると、次のようになります。
| 時代・年代 | 主な車両・出来事 | 特徴・関係性 |
|---|---|---|
| 1872年・明治5年 | 鉄道開業と御料車の利用 | 輸入上等客車を皇室用に使用 |
| 1876~1877年 | 初代1号御料車 | 国産初の御料車。明治天皇が乗車 |
| 大正時代 | 各種御料車・供奉車 | 皇室の鉄道利用と運行形式が発展 |
| 1960年・昭和35年 | 新1号御料車・1号編成 | 専用客車を中心とする編成が活躍 |
| 1964年・昭和39年 | 東海道新幹線 | 新幹線による皇室の移動が始まる |
| 2002年 | 従来型御料車 | 旧来の御料車の最後の運転 |
| 2007~2008年 | E655系「なごみ」 | 新しいハイグレード車両として登場 |
| 2019年 | E655系と特別車両 | 令和初期のお召し列車として運行 |
| 2025年8月 | E655系5両編成 | 両陛下のご静養に伴う運行 |
| 2026年4月 | 臨時専用新幹線 | 天皇ご一家の福島訪問に伴う運行 |
この年表から分かるのは、お召し列車の歴史が単純な車両の世代交代ではないということです。皇室の移動目的、鉄道技術、社会環境の変化に合わせて、運行方法そのものが変わってきました。
【車両の違い】御料車と供奉車とは?鉄道博物館で見られる歴代車両
お召し列車の歴史を理解するために欠かせないのが、御料車と供奉車の違いです。
御料車は天皇陛下などが乗車される特別車両
御料車とは、天皇・皇后両陛下などが乗車されるために特別に製造された車両です。
一般の客車とは異なり、室内には御座所や休憩室、控室、化粧室などが設けられていました。時代によって仕様は異なりますが、快適性だけでなく、内装や美術工芸の面でも高度な技術が投入されています。
御料車の内部には、絹織物や高級木材、伝統的な装飾などが用いられました。鉄道車両でありながら、移動する宮殿を思わせる空間が構成されていたのです。
供奉車は随伴する関係者が乗車する車両
供奉車(ぐぶしゃ)は、天皇陛下に随伴する侍従や関係職員などが乗車するための車両です。
御料車がご本人のための車両であるのに対して、供奉車は移動に必要な人員や関連業務を支える役割を担っていました。
車両によっては、給仕室、湯沸室、食事の準備に関係する設備、休憩スペースなどが備えられていました。単に付き添いの人を運ぶだけではなく、長距離移動を支える機能を持っていたのです。
御料車と供奉車の違いを比較
| 比較項目 | 御料車 | 供奉車 |
|---|---|---|
| 主な乗車対象 | 天皇・皇后両陛下など | 侍従・随伴職員など |
| 主な役割 | 皇室の方々の乗車 | 随伴者の移動と業務支援 |
| 車内設備 | 御座所・休憩室・化粧室など | 座席・控室・給仕設備など |
| 外観の特徴 | 菊花紋章などの装飾 | 編成や用途に応じた仕様 |
| 現在の位置づけ | 歴代車両は保存・展示。現代は特別車両などが役割を継承 | 歴代の供奉車は博物館などで保存 |
鉄道博物館で見られる一号御料車
歴史的な御料車を実際に見たい人にとって、重要な施設が埼玉県さいたま市の鉄道博物館です。
同館には1876(明治9)年に製造された初代1号御料車が保存されています。
この車両は2003年5月29日に国の重要文化財に指定されました。明治初期の鉄道技術と工芸装飾を伝える歴史資料として、高い文化的価値を持っています。
車体には菊花の紋章を抱く龍の図様が施され、室内には絹張りの壁や天井、洋式の調度品が設けられていました。日本の伝統的な意匠と当時の西洋文化が融合した特徴的な車両です。
また、JR東日本が公開した鉄道博物館館長の回答資料によると、旧御料車の運転は2002年が最後で、現在はE655系に必要に応じて特別車両を組み込む方式が採用されています。
鉄道博物館では歴代の御料車を展示する際、温度・湿度の管理や紫外線対策などを行い、貴重な内装や装飾を保存しています。
なお、供奉車については名古屋市科学館でも344号車が展示されており、御料車とは異なる随伴者用車両の構造を知ることができます。
【現在の主役】JR東日本E655系「なごみ」とE655-1特別車両の全貌
現在のお召し列車を語るうえで欠かせないのが、JR東日本のE655系です。
愛称は「なごみ(和)」。皇室の特別な移動に対応できる性能を持ちながら、通常は団体専用列車としても活用されるハイグレード車両です。
E655系が登場した背景
E655系は2007年に製造されました。
従来のお召し列車に使用されてきた1号編成などの老朽化を背景に、新しい皇室用車両として開発されたものです。
JR東日本は2007年12月13日の公式発表で、5両のハイグレード車両に「なごみ(和)」という愛称を付けたことを発表しました。
2008年2月から営業運転を開始し、一般の旅行商品にも使用されるようになりました。
E655系の基本的な仕組みと特徴
E655系は、直流・交流の双方に対応する交直流電車です。JR東日本の在来線における異なる電化方式に対応し、幅広い区間で運行できる設計となっています。
JR東日本びゅうツーリズム&セールスの車両紹介によると、通常のハイグレード車両は5両編成で、全車グリーン車仕様です。
主な特徴は次のとおりです。
- 車両形式:E655系
- 愛称:なごみ(和)
- 製造:2007年
- 営業開始:2008年2月
- 通常編成:5両
- 座席:全車グリーン車仕様
- 3号車:9席のVIPシート
- 対応電源:直流1500V・交流20000Vの50Hz・60Hz
車内は2列+1列の3列座席配置を採用し、3号車には本革張りのVIPシートが9席設けられています。
外装には光の当たり方によって色合いが変化する特殊な塗装が施されており、落ち着いた高級感を持つ車両として仕上げられています。
E655-1とは?特別車両の役割
E655系をお召し列車として使用する際に重要な役割を果たすのが、特別車両E655-1です。
通常の5両編成に、この特別車両を組み込むことで6両編成となります。基本的には3号車と4号車の間に連結されます。
E655-1には、特別室、休憩室、次室などが設けられています。天皇・皇后両陛下や国賓などの利用を想定した特別な空間です。
特別室には高級木材や絹織物などが用いられ、歴代御料車の伝統を受け継ぐ設計になっています。
ここで重要なのは、E655-1が常に編成に連結されているわけではないことです。
通常の団体列車として運転する際には5両編成で走り、お召し列車として運行する場合でも、目的や運行形態に応じて特別車両を連結しないケースがあります。
E655系は現在も運行されている?
2026年11月現在、E655系「なごみ」は現役の車両です。
JR東日本グループの旅行商品にも使用されており、2026年10月30日更新の公式旅行案内でも、E655系を使用した旅行商品の情報が掲載されています。
つまり、E655系は過去の皇室専用車両とは異なり、特別な用途と一般向けの団体旅行という二つの役割を持ち続けているのです。
【見分け方】国旗・菊の御紋章・車体からお召し列車を判別するポイント
鉄道ファンや沿線で列車を見る人にとって、お召し列車の見分け方は大きな関心事です。
従来の専用編成では、国旗や菊の御紋章など、一般の列車にはない特徴が見られました。
1. 先頭部の日章旗
伝統的なお召し列車では、先頭車両や牽引機関車に日章旗が掲げられることがあります。
列車の先頭に掲げられる国旗は、特別な運行形態を視覚的に示す代表的な特徴です。
2. 御料車に取り付けられる菊の御紋章
もう一つの代表的な特徴が菊花紋章です。
歴代の御料車には菊の御紋章が取り付けられ、車両の特別な位置づけを示してきました。
E655系の場合、特別車両E655-1に菊の御紋章を取り付ける仕様が採用されています。
3. E655系の6両編成
E655系の場合、通常の5両編成に特別車両E655-1が加わった6両編成は、伝統的なお召し列車の姿を見分ける一つの手掛かりになります。
ただし、6両編成だから必ずお召し列車というわけではなく、運行目的や実際の乗車状況を踏まえる必要があります。
4. 菊の御紋章や日章旗がない場合もある
ここが最も間違えやすいポイントです。
2019年8月の須崎御用邸への移動では、E655系の5両編成が使用されましたが、特別車両E655-1は連結されず、日章旗や菊の御紋章も掲出されませんでした。
さらに2025年8月1日と7日のご静養に伴う運行でも、E655系のTR車抜き5両編成が使用されています。
つまり、旗や菊の御紋章が見当たらないからといって、お召し列車ではないと判断することはできません。
5. 新幹線のお召し列車はどう見分ける?
新幹線の場合は、E655系のような専用の特別車両が編成に組み込まれているわけではありません。
通常の営業用車両と同じ形式の新幹線を、編成単位で貸し切って臨時列車として運行する方法が採用されます。
そのため、車両の外観だけで判別するのは難しく、報道発表や鉄道事業者の運行情報などが判断材料になります。
見分け方の本質は、国旗や菊の御紋章だけに頼らず、列車の運行目的と公式な情報を合わせて確認することです。
【費用・運賃】お召し列車は無料?宮内庁と鉄道会社の支払いの仕組み
お召し列車について、意外と知られていないのが運賃と費用の扱いです。
天皇・皇后両陛下が乗車される特別列車という性質から、鉄道会社がすべての費用を負担していると思われることがありますが、現在の仕組みは異なります。
国鉄時代は無賃扱いだった
国鉄時代には、天皇・皇后両陛下や皇太子、その随行者などについて、国鉄の運賃・料金が無賃扱いとされていました。
ただし、この取り扱いは国鉄に関するもので、私鉄では実費精算によって運賃・料金を支払っていたとされています。
現在は鉄道事業者に運賃・料金を支払う
現在は、皇室の公務に伴う鉄道利用についても、運賃・料金が支払われています。
皇室担当の取材経験を持つ工藤直通氏による2024年の解説では、宮内庁と鉄道事業者が年度ごとに契約・協定を取り交わし、鉄道利用に伴う費用を精算する仕組みが紹介されています。
一般の利用者のように乗車券を購入するのではなく、鉄道事業者からの請求書に基づいて後払いする方式です。
お召し列車の運賃はいくらになる?
お召し列車には、全国共通の固定運賃が設定されているわけではありません。
車両の種類、運行区間、乗車人数、特急料金やグリーン料金などの条件によって費用が異なります。
例えば、皇室専用車両を組み込んだ6両編成の場合、一般的な運賃に加えて特急料金やグリーン料金などを基礎として、乗車人数を考慮する計算例が紹介されています。
ただし、実際の精算額は個別の契約や運行条件によるため、一般向けの乗車料金表からお召し列車の総費用を算出することはできません。
費用は税金から支払われるのか
皇室の公的活動に必要な経費については、宮内庁の予算制度に基づいて管理されています。
宮内庁の公式資料によると、皇室の費用は内廷費・皇族費・宮廷費に区分されています。このうち宮廷費は、儀式、国賓・公賓の接遇、行幸啓、外国訪問などの公的活動に必要な経費を対象としています。
2026年度の宮廷費は120億392万円です。
ただし、この金額は皇室の公的活動全体に関係する予算であり、お召し列車だけに使われる金額ではありません。列車の運行費用を示す独立した数字として解釈するのは誤りです。
お召し列車の運賃について押さえておきたいのは、現在は無料ではなく、宮内庁と鉄道事業者との取り決めに基づいて費用が精算されているという点です。
【プロの結論】お召し列車の本当の価値は車両の豪華さだけではない
お召し列車を理解するうえで重要なのは、豪華な車両や菊の御紋章だけに注目しないことです。
明治時代の御料車は、当時の最新技術や工芸を結集した特別な車両でした。大正・昭和時代には専用編成と供奉車が整備され、全国各地への行幸を支える役割を果たしました。
そして現在は、E655系「なごみ」や新幹線など、時代に応じた車両が選択されています。
この変化には、三つの意味があります。
- 技術の進歩:専用客車から高性能電車、新幹線へと移動手段が進化した。
- 運行の合理化:皇室専用車両だけに依存せず、既存の車両や鉄道網を活用できるようになった。
- 公的活動への対応:行幸啓の目的や距離、移動条件に応じて最適な運行方式を選択できるようになった。
また、鉄道博物館に保存されている初代1号御料車と、現在も運行されているE655系を比較すると、150年近くにわたる鉄道技術の変化を実感できます。
お召し列車は、単なる特別待遇のための列車ではありません。皇室の公的活動を支える交通手段であり、日本の鉄道史、車両製造技術、運行管理の歴史を映し出す存在です。
お召し列車に関するよくある質問(FAQ)
Q1:お召し列車は現在も運行されていますか?
A1:はい。2026年4月には福島県への訪問に伴う臨時専用新幹線が運行されました。また、2025年8月にはJR東日本のE655系「なごみ」がご静養に伴う移動に使用されています。
Q2:お召し列車には必ず菊の御紋章が付いていますか?
A2:いいえ。特別車両E655-1を組み込む場合には菊の御紋章が取り付けられることがありますが、特別車両を連結しない運行もあります。2025年8月のE655系による運行も5両編成で、特別車両はありませんでした。
Q3:E655系「なごみ」は一般の人も乗車できますか?
A3:はい。通常は団体専用列車として運行され、JR東日本グループの旅行商品などを通じて乗車できる機会があります。ただし、一般向けの定期旅客列車ではなく、募集型の旅行商品などによる利用が中心です。
Q4:E655-1とE655系の違いは何ですか?
A4:E655系は基本となる5両のハイグレード車両を含む車両系列で、E655-1は必要に応じて連結される特別車両です。E655-1には特別室や休憩室などが設けられています。
Q5:昔の御料車は今も走っていますか?
A5:いいえ。従来の御料車の最後の運転は2002年です。現在はE655系の特別車両などがその役割を引き継いでいます。歴代車両の一部は鉄道博物館などに保存・展示されています。
Q6:お召し列車の運賃は無料ですか?
A6:現在は無料ではありません。公務に伴う鉄道利用では、宮内庁と鉄道事業者との契約・協定に基づいて運賃や料金が精算されます。一般の乗客と同じように乗車券を購入する方式ではありません。
Q7:お召し列車の運行予定は事前に分かりますか?
A7:行幸啓などの予定が公表されることはありますが、具体的な列車の運行時刻や経路などがすべて公開されるわけではありません。実際の運行情報は、宮内庁や鉄道事業者、関係自治体の公表情報を確認する必要があります。
まとめ:お召し列車は明治から令和へ受け継がれる日本の鉄道文化
お召し列車は、1872年の鉄道開業期から続く、日本の皇室と鉄道の深い関係を象徴する存在です。
明治天皇の時代に始まった御料車は、大正・昭和時代の専用客車や供奉車へと発展し、平成以降は一般車両や新幹線を利用する運行形態も増えていきました。
現在のJR東日本E655系「なごみ」は、その歴史を受け継ぐ代表的な車両です。特別車両E655-1を組み込める一方、通常は5両編成の団体専用列車としても活躍しています。
また、2026年には臨時専用新幹線による移動も確認されており、お召し列車の形は一つに限定されていません。
最後に、理解しておきたいポイントを整理します。
- お召し列車は天皇・皇后両陛下が乗車される特別な列車である。
- 御料車は皇室の方々が乗車する車両、供奉車は随伴者が乗車する車両である。
- 歴代御料車の一部は鉄道博物館などで保存されている。
- E655系「なごみ」は現在も運行されるハイグレード車両である。
- 国旗や菊の御紋章がなくても、お召し列車として運行される場合がある。
- 現在の運賃・料金は宮内庁と鉄道事業者との取り決めに基づいて精算される。
お召し列車の価値は、豪華な内装や特別な装飾だけにあるのではありません。時代ごとの鉄道技術と皇室の移動のあり方を伝え、今も日本の鉄道文化の一端を担っていることに、その大きな意味があります。
明治から令和へ。車両が変わっても、鉄道が皇室の公的活動を支えるという役割は受け継がれています。これからのお召し列車も、日本の鉄道史を語るうえで欠かせない存在であり続けるでしょう。