無眼球症の診断では、単に眼球が見えるかどうかを確認するだけでは不十分です。眼球の残存組織、眼窩の大きさ、視神経、脳の構造、ほかの臓器の状態まで調べる必要があります。
出生前に発見できる?
無眼球症は、妊娠中の超音波検査によって発見される場合があります。
胎児の眼窩や水晶体の形成状態を確認し、左右の眼球の大きさや形態を評価します。超音波検査だけでは判断が難しい場合には、胎児MRIを追加して脳や眼窩周囲の構造を調べることもあります。
ただし、妊娠中の超音波検査ですべての無眼球症や小眼球症を発見できるわけではありません。出生前に異常が確認されても、出生後に改めて眼科的な診察と画像検査を行うことが重要です。
出生後に行われる主な検査
| 検査 | 調べる内容 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 眼科的診察 | 眼球・まぶた・眼窩の状態 | 疾患の有無と程度を確認 |
| 眼球超音波検査 | 眼球の大きさや内部構造 | 小眼球症との鑑別 |
| MRI検査 | 眼窩・視神経・脳の構造 | 残存組織や合併症の確認 |
| CT検査 | 眼窩の骨格や構造 | 骨の発達や形態の評価 |
| 染色体検査 | 染色体の数や構造 | 染色体異常の確認 |
| 遺伝子パネル検査 | 眼球形成関連遺伝子 | 遺伝的原因の特定 |
眼球超音波検査は、眼球の大きさや内部の構造を調べるうえで役立ちます。
MRIは眼球の残存組織だけでなく、視神経や脳の発達状態を確認できる点が特徴です。SOX2関連疾患などが疑われる場合には、脳の構造や下垂体の状態を調べることもあります。
CTは骨の形態を確認する際に有用ですが、放射線被ばくを伴うため、小児では検査の必要性を慎重に判断します。
遺伝子検査は全員に必要?
遺伝子検査を実施するかどうかは、眼の症状、家族歴、全身症状、画像検査の結果などを総合して判断します。
特に次のような場合は、遺伝学的な評価が診療に役立つ可能性があります。
- 両眼に無眼球症や重度の小眼球症がある
- 家族に先天性の眼疾患がある
- 発達の遅れや脳の構造異常を伴う
- 食道や内分泌系など、眼以外にも異常がある
- 将来の妊娠に向けて再発リスクを確認したい
検査の前後には遺伝カウンセリングを受け、結果の意味や家族への影響について説明を受けることが望まれます。
【2026年最新研究】国立成育医療研究センターの111例解析で何が判明した?
無眼球症の診療を考えるうえで、2026年に公表された国内の遺伝子解析研究は重要な進展です。
国立成育医療研究センターを中心に、京都府立医科大学、三重大学、浜松医科大学が参加した共同研究では、前眼部形成異常・無虹彩症と小眼球症・無眼球症の遺伝的背景が調査されました。
研究成果は、2026年7月28日にオンライン公開された医学論文「Molecular and Clinical Analyses of 111 Patients with Bilateral Anterior-Segment Dysgenesis/Aniridia and Microphthalmia/Anophthalmia」として、専門誌『Ophthalmology Science』に掲載されています。国立成育医療研究センターも2026年に研究成果を発表しました。
111人の研究対象と解析方法
今回の研究で登録されたのは、111人・102家系です。
対象者の年齢は生後1か月から69歳までで、18歳以下の小児が94人、全体の84.7%を占めました。
重要なのは、111人全員が無眼球症だったわけではないという点です。
内訳は次のとおりです。
- 前眼部形成異常・無虹彩症:97人、88家系
- 小眼球症・無眼球症:14人、14家系
また、研究対象は両眼に病変がある患者であり、片眼性の症例は除外されています。
つまり、今回の研究結果を片眼性無眼球症を含むすべての患者にそのまま当てはめることはできません。
研究で使用された小眼球症・無眼球症の遺伝子パネル
研究グループは、次世代シーケンシングを利用して、疾患に関連する主要な遺伝子をまとめて調べる独自の遺伝子パネルを作成しました。
小眼球症・無眼球症については、次の12遺伝子が解析対象になっています。
| 遺伝子 | 関係する内容 |
|---|---|
| ABCB6 | 眼球形成に関連する遺伝子 |
| ALDH1A3 | 胎児期の眼の発生に関係 |
| BMP4 | 眼や神経系などの発生に関係 |
| CRYBA4 | 水晶体形成に関係 |
| GDF3 | 胎児期の組織形成に関係 |
| OTX2 | 眼や脳の発生に関係 |
| RARB | 発生過程の遺伝子制御に関係 |
| RAX | 初期の眼球形成に関係 |
| SOX2 | 眼や脳などの発生に関係 |
| STRA6 | ビタミンAの代謝・発生に関係 |
| TENM3 | 神経系や組織形成に関係 |
| VSX2 | 網膜など眼球組織の発生に関係 |
これらはすべて同じ仕組みで病気を起こすわけではありません。遺伝子ごとに関係する発生過程や遺伝形式が異なります。
2026年研究の主要結果を比較
研究で明らかになった主な数字と知見を整理します。
| 研究項目 | 結果 | 医学的な意味 |
|---|---|---|
| 解析対象 | 111人・102家系 | 国内4施設の共同研究 |
| 前眼部形成異常・無虹彩症 | 97人 | 原因遺伝子特定率50.0% |
| 小眼球症・無眼球症 | 14人 | 原因遺伝子特定率37.5%(発表値) |
| 遺伝子パネル | 11遺伝子・12遺伝子 | 疾患群ごとに設計 |
| 新たな病的バリアント | 11種類 | 遺伝的背景の理解が進展 |
| 無眼球症関連遺伝子 | OTX2、SOX2など | 遺伝子と症状の関係を確認 |
| 全身合併症 | 神経系の異常など | 小児科などとの連携が必要 |
ここで、数字の読み方には注意が必要です。
国立成育医療研究センターの発表および論文要旨では、小眼球症・無眼球症の原因遺伝子特定率は37.5%とされています。一方、論文本文の詳細な結果では、14家系中5家系で病的バリアントが見つかったと記載され、計算上は35.7%です。
この数値には記載上の差があるため、研究成果を引用する際には、発表値と本文の実数を区別して読む必要があります。いずれにしても、14人という比較的小規模な集団を対象にした研究であり、全国の患者における遺伝子診断率を示すものではありません。
SOX2遺伝子の変化も確認された
今回の研究で特に注目されるのが、SOX2遺伝子の病的バリアントです。
研究では、SOX2を含む5つの遺伝子(ABCB6、BMP4、OTX2、RARB、SOX2)で、小眼球症・無眼球症に関連する病的バリアントが確認されました。
SOX2の変化が確認された患者では、右眼が小眼球症、左眼が無眼球症という左右で異なる表現型が認められています。このSOX2バリアントは新生突然変異と判定されました。
この結果が示すのは、同じ遺伝子に関連する疾患でも、左右の眼で症状の程度が異なる可能性があるということです。
また、親に明らかな眼の異常がない場合でも、子どもに遺伝子の変化が見つかることがあります。
研究の成果は今後の診療をどう変える?
今回の研究の価値は、原因遺伝子を見つけることだけではありません。
遺伝子の種類と合併症の関係を把握することで、患者ごとに必要な検査や診療科を検討しやすくなる点にあります。
例えば、研究ではBMP4やRARBのバリアントを持つ患者に神経系の異常が確認されました。
この結果は、眼科だけでなく、小児神経科などとの連携を検討する根拠になります。
一方で、今回の解析対象となった遺伝子は限られています。研究論文でも、今後は原因遺伝子の追加や長期的な経過観察が必要とされています。
2026年の研究は、無眼球症の遺伝的原因をすべて解明したものではなく、遺伝子診断を個別化医療につなげるための重要な一歩と位置付けられます。
【無眼球症の治療】義眼・眼窩形成・手術でできること
無眼球症の治療を考える際には、まず「視力を回復させる治療」と「眼窩や顔の発達を支える治療」を区別する必要があります。
現在、欠損した眼球そのものを新たに作り出したり、完全に失われた視覚を取り戻したりする確立した治療法はありません。
しかし、義眼や眼窩形成などによって、顔の成長を支えたり、左右の外見のバランスを整えたりすることは可能です。
義眼はどのような役割を果たす?
義眼は、欠損した眼球の外見を補うために使用する人工の眼です。
無眼球症では、眼球がない側の眼窩やまぶたが十分に発達しないことがあります。そこで、年齢や眼窩の状態に合わせた器具を使用し、成長を支えます。
義眼の主な目的は次の3つです。
- 左右の顔立ちや外見のバランスを整える
- 眼窩やまぶたの発達を支援する
- 外見上の変化による心理的負担を軽減する
重要なのは、義眼を装着しても視力が回復するわけではないという点です。
義眼は視覚機能を補う医療機器ではなく、主に外見や眼窩の形成を支えるものです。
眼窩形成では何をする?
眼窩形成は、眼球が存在しない、または極端に小さいことによって発達が不十分となった眼窩を整える治療です。
特に乳幼児期は顔面や頭蓋骨が成長する時期であり、眼窩の発達を継続的に評価する必要があります。
代表的な対応には、次のようなものがあります。
1. コンフォーマーによる拡張
コンフォーマーは、眼窩に装着する専用のプラスチック製器具です。眼窩の形状や大きさに合わせて作製し、成長に合わせて段階的にサイズを変更します。
2. 義眼の装着
眼窩の状態が整ってきた段階で、個々の眼の形や周囲の組織に合わせた義眼を装着します。
3. 眼窩形成手術
眼窩の容積が不足している場合や、器具だけでは十分な形成が難しい場合には、外科的な処置が検討されます。
具体的には、組織拡張器の使用、眼窩内への組織移植、眼窩インプラントなどがあります。
すべての患者に手術が必要なわけではなく、眼窩の状態、年齢、成長の程度、本人の負担などを踏まえて治療方針が決まります。
治療は何歳から始めるべき?
眼窩形成では、早期から専門医による評価を受けることが重要です。
国立成育医療研究センターの2026年の発表でも、視覚と心身の発達が急速に進む時期として、0~2歳の重要性が説明されています。
この時期には眼窩だけでなく、視覚刺激への反応、運動能力、周囲とのコミュニケーションなども発達していきます。
そのため、義眼やコンフォーマーの使用を検討する場合も、単純に装着を急ぐのではなく、専門医と義眼製作の専門家が成長に合わせて調整することが大切です。
【無眼球症の予後と発達支援】将来の生活・成長への影響は?
無眼球症の予後は、片眼性か両眼性か、残存する視覚機能の有無、原因遺伝子、全身合併症の有無によって大きく異なります。
眼球の欠損そのものだけで、将来の知的発達や生活能力が決まるわけではありません。
視覚障害と発達への影響
両眼性の無眼球症では、視覚から得られる情報が極めて限られるため、周囲の状況を理解したり、移動したりする際に特別な支援が必要になる場合があります。
特に乳幼児期は、視覚だけでなく、触覚や聴覚を活用して周囲の環境を理解する経験が重要です。
一方、発達の遅れがある場合には、視覚障害だけが原因とは限りません。
SOX2、BMP4、RARBなどの遺伝子に関連する病態では、脳や神経系の発達にも影響する可能性があります。
そのため、眼科での診察と並行して、必要に応じて小児神経科や内分泌科などで全身状態を評価が必要です。
発達支援で取り入れたいこと
無眼球症の子どもに対する支援では、視覚障害の程度や本人の発達段階に応じて、次のような取り組みが考えられます。
- 早期療育:乳幼児期から運動、認知、コミュニケーションを支援する
- 視覚リハビリテーション:残存視力がある場合は、その機能を活用する
- 触覚・聴覚の活用:音や手触りを使って周囲の環境を理解する
- 移動支援:安全な歩行や空間認識を身につける
- 教育支援:点字、音声教材、拡大教材などを必要に応じて活用する
- 心理的支援:本人や家族が病気と向き合うための相談体制を整える
SOX2関連疾患の診療指針でも、小児眼科医、眼形成外科医、神経科医、内分泌科医、理学療法士、作業療法士などによる多職種連携が推奨されています。
片眼性の場合は健常眼の保護も重要
片眼性無眼球症では、反対側の目が正常に機能している場合、その目を長期的に守ることが大切です。
医師と相談しながら、必要に応じて保護用眼鏡やスポーツ用ゴーグルなどを使用します。
また、反対側の目にも小眼球症や網膜などの異常がないか、定期的に検査を受けることが望まれます。
片眼で生活する場合、距離感や立体視に慣れるための環境調整も役立ちます。
将来の生活を左右する判断基準
無眼球症の長期的なケアを考える際には、次の3点が重要です。
1. 眼球と眼窩の状態:成長に合わせた義眼や眼窩形成が必要か。
2. 遺伝子と全身状態:脳、神経、内分泌などの合併症がないか。
3. 本人の発達状況:視覚障害の程度に応じた療育・教育環境が整っているか。
外見を整える治療だけに注目するのではなく、成長後の生活の質まで考慮した長期的な診療計画が大切です。
【無眼球症に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:無眼球症は生まれる前に分かりますか?
A1:妊娠中の超音波検査で発見される場合があります。必要に応じて胎児MRIなどを追加します。ただし、出生前に必ず診断できるわけではなく、出生後の眼科的診察や画像検査による確認が必要です。
Q2:無眼球症は親から子どもに遺伝しますか?
A2:遺伝するケースもありますが、必ず遺伝するわけではありません。SOX2やOTX2などの遺伝子変化によって発症する場合もあれば、受精後などに新たに生じた遺伝子変化による場合もあります。家族歴がなくても発症する可能性があります。
Q3:義眼を装着すれば見えるようになりますか?
A3:義眼は外見や眼窩の発達を支えるためのもので、視力を回復させるものではありません。ただし、小眼球症では眼球に視覚機能が残っている場合があり、その機能を評価して適切な治療や視覚支援を行います。
まとめ:無眼球症の治療は早期診断と長期的な発達支援が鍵
無眼球症は、胎児期の眼球形成に異常が生じることで発症する先天性疾患です。片眼性・両眼性があり、小眼球症と連続した病態として現れる場合もあります。
原因にはSOX2、OTX2、BMP4などの遺伝子変化や染色体異常、胎児期の環境要因などが関係しています。家族歴がない場合でも遺伝子の変化が見つかることがあり、遺伝子検査と遺伝カウンセリングの役割は小さくありません。
2026年の国立成育医療研究センターを中心とする111人の解析は、日本人を含む東アジア人集団の遺伝的背景を理解するうえで重要な成果です。小眼球症・無眼球症の原因遺伝子を複数特定し、SOX2などの遺伝子と症状の関係についても新しい知見を示しました。
【プロの結論】これからの無眼球症診療で大切な3つの視点
第一に、眼球の状態だけで病気の全体像を判断しないこと。
無眼球症は、眼球の欠損だけでなく、脳や神経、内分泌系などの合併症を伴う場合があります。画像検査と必要に応じた遺伝子検査によって、全身状態まで把握することが大切です。
第二に、義眼と視覚回復を混同しないこと。
義眼やコンフォーマーは、外見や眼窩の成長を支えるためのものです。残存視力がある場合には、その機能を守るための診療も並行して行います。
第三に、遺伝子診断を将来の生活支援につなげること。
2026年の111人の研究が示したように、原因遺伝子の特定は合併症の予測や診療科間の連携に役立つ可能性があります。ただし、検査で原因が特定されない患者もいるため、陰性結果だけで診療を終えるべきではありません。
無眼球症の診療で目指すべきなのは、眼の形を整えることだけではなく、子どもが成長し、自分らしい生活を送れる環境を整えることです。小児眼科、眼形成外科、遺伝診療、療育・教育支援が連携する体制が、今後ますます重要になります。
主な医学的参照資料:国立成育医療研究センター(2026年研究発表)、Ophthalmology Science(2026年掲載論文)、米国CDC、米国National Eye Institute、NCBI GeneReviews、MedlinePlus Genetics。