妊娠が分かったものの、吐き気や嘔吐などのつわりがほとんどないと、「赤ちゃんは順調に育っているのだろうか」「つわりがないと流産しやすいのでは?」と不安になる人も少なくありません。周囲の妊婦さんが食べ物のにおいで気分が悪くなったり、食事が取れなくなったりする一方で、自分は普段と変わらず過ごせると、かえって心配になることもあります。
しかし、つわりの有無や強さには大きな個人差があり、吐き気をほとんど感じないまま妊娠期間を過ごす人もいます。2026年現在、こども家庭庁や厚生労働省の妊娠・出産に関する情報、海外の医学研究などから分かっているのは、つわりの程度だけで赤ちゃんの健康状態を判断することはできないという点です。ここでは、つわりがない人の特徴、hCGなどのホルモンとの関係、吐き気以外の妊娠初期症状、流産との関係、医療機関を受診する目安を詳しく解説します。
【特徴を解説】つわりがない人に共通する体質や性格はある?
つわりがない人について、医学的に確立された共通の体型、性格、年齢などはありません。妊娠していても吐き気や嘔吐をほとんど経験しない人もいれば、食事や日常生活に支障が出るほど強いつわりを経験する人もいます。
こども家庭庁が公開している「妊娠中に気をつけたい症状と病気」では、つわりは妊娠初期に半数以上の妊婦に見られる一般的な症状と説明されています。裏を返せば、すべての妊婦に同じ症状が現れるわけではありません。
1. ホルモンや神経系への反応に個人差がある
妊娠すると、女性の体内ではさまざまなホルモンの変化が起こります。こうした変化に対する身体の反応は一人ひとり異なります。
同じような妊娠週数であっても、吐き気を強く感じる人と、ほとんど感じない人がいるのは、ホルモンの分泌量だけでなく、それを受け取る身体側の感受性なども関係しているためです。
2. 妊娠前からの体質や遺伝的な違いが関係する可能性
つわりの程度には遺伝的な要因も関係すると考えられています。特に、妊娠中の吐き気や嘔吐が重症化する妊娠悪阻については、遺伝子とホルモンの関係を調べた研究が進んでいます。
ただし、乗り物酔いをしにくい、胃腸が丈夫、普段から体力があるといった特徴だけで、つわりが起きないと判断することはできません。
3. 2人目以降でも前回と同じとは限らない
1人目の妊娠では強いつわりがあったのに、2人目ではほとんど症状がなかったというケースも考えられます。反対に、前回は問題なく過ごせたのに、次の妊娠では吐き気が強くなることもあります。
妊娠ごとにホルモン環境や母体の状態が異なるため、過去の妊娠経験だけで今回のつわりを予測することはできません。
4. 精神的ストレスや生活環境も症状に影響する
厚生労働省の「働く女性の心とからだの応援サイト」では、つわりの症状は環境や精神的な要素によって左右され、強いにおい、換気不足、高温多湿、騒音、緊張を伴う作業などによって悪化しやすいと説明されています。
ただし、ストレスが少ない人ならつわりが起こらないという意味ではありません。環境による症状の変化と、つわりそのものが現れるかどうかは分けて考える必要があります。
【医学的な理由】つわりがないのはなぜ?hCG・GDF15との関係
つわりが起きる仕組みは、現在も研究が続いている分野です。以前から妊娠に伴うホルモン変化、特にhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)との関係が注目されてきました。
一方、2024年に学術誌Natureに掲載された研究では、GDF15というホルモンと母体側の感受性が、妊娠中の吐き気や嘔吐の重症度に大きく関係することが示されています。
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)とは?
hCGは、妊娠成立後に胎盤を形成する組織から分泌されるホルモンです。妊娠初期には黄体を刺激し、妊娠の維持に必要なプロゲステロンなどの分泌を支えます。
hCGは妊娠初期に急激に増加し、一般的には妊娠8〜12週頃に高い値になります。この時期はつわりが強くなりやすい時期とも重なるため、両者の関連が研究されてきました。
ただし、hCGが高ければ必ずつわりが強くなる、低ければつわりがないという単純な関係ではありません。hCGの値だけで、つわりの有無や胎児の健康状態を判断することもできません。
GDF15がつわりの個人差を説明する新たな手がかりに
注目されているのが、GDF15(成長分化因子15)というホルモンです。
2023年12月にオンライン公開され、2024年のNature第625巻に掲載された研究では、胎児・胎盤由来のGDF15が母体の血液中に増加し、脳幹にある受容体を介して吐き気や嘔吐に関係することが示されました。
この研究で重要なのは、GDF15の血中濃度だけでなく、母体がそのホルモンにどの程度反応するかも症状の重さに関係するという点です。妊娠前のGDF15への曝露や遺伝的な違いが、妊娠中の感受性に影響する可能性も示されています。
つまり、妊娠によってホルモンが増えていても、母体側の反応の違いによって症状の出方が変わる可能性があります。これが、つわりの個人差を理解するうえで重要な研究成果です。
つわりに関係する主な要素の比較
| 関連する要素 | 身体への関係 | つわりとの関連 |
|---|---|---|
| hCG | 妊娠初期の黄体機能や妊娠維持を支える | つわりの発生時期との関連が研究されている |
| GDF15 | 脳幹の受容体を介して食欲や吐き気に関係する | 母体の感受性とともに症状の重さに関係する |
| 遺伝的要因 | ホルモンの産生や反応の個人差に関係する | 特に妊娠悪阻のリスクとの関連が研究されている |
| 精神的・環境的要因 | ストレスやにおい、作業環境などが身体に影響する | 既にあるつわり症状を悪化させる場合がある |
| 妊娠ごとの違い | 妊娠経過やホルモン環境が異なる | 同じ人でも妊娠ごとに症状が変わる |
なお、GDF15やhCGを測定すれば、つわりがない理由を個人単位で特定できるという段階には至っていません。これらは症状の仕組みを理解するための研究対象であり、つわりの有無を診断する検査ではありません。
【妊娠初期の症状】吐き気がなくても妊娠のサインはある?
つわりという言葉から吐き気や嘔吐を連想する人は多いものの、妊娠初期の身体の変化はそれだけではありません。
吐き気がなくても、眠気や疲労感、乳房の張り、頻尿などが現れることがあります。また、こうした症状もほとんど感じない人もいます。
吐き気以外に現れることがある妊娠初期症状
- 強い眠気:ホルモンの変化や睡眠の質の変化などによって、日中に眠気を感じることがある。
- 疲労感・倦怠感:普段より疲れやすくなり、身体が重く感じられる場合がある。
- 乳房の張り:ホルモン変化によって胸が張ったり、乳首が敏感になったりする。
- 頻尿:妊娠初期の身体の変化に伴い、トイレに行く回数が増えることがある。
- 便秘:ホルモンの影響などで腸の動きが変化し、便通が悪くなる場合がある。
- 味覚・嗅覚の変化:食べ物の好みが変わったり、以前は気にならなかったにおいが気になったりする。
- 頭痛・気分の変化:身体の変化に伴って頭痛や気分の不安定さを感じることがある。
これらはすべての人に現れるわけではなく、妊娠していない場合にも似た症状が起こることがあります。症状だけで妊娠の経過を判断することはできません。
つわりはいつから始まる?症状が出ないまま経過することもある
つわりが始まる時期には個人差がありますが、一般的には妊娠4〜7週頃から現れることが多く、妊娠8〜12週頃に症状が強くなる人もいます。
厚生労働省の情報では、つわりは一般的に妊娠12週頃を境に改善することが多いとされています。一方、海外の米国産科婦人科学会(ACOG)の解説では、多くの場合、妊娠14週頃までに症状が落ち着くと説明されています。妊娠16〜20週頃まで続く人や、それ以降も症状が残る人もいます。
この時期はあくまで一般的な目安です。妊娠初期に吐き気がないからといって、これから必ずつわりが始まるわけでもありません。
妊娠初期の週数とつわりの目安
- 妊娠4〜5週:妊娠に伴うホルモン変化が進み、体調に変化が現れ始める人がいる。
- 妊娠5〜7週:吐き気や食欲不振など、つわりを自覚する人が増える時期。
- 妊娠8〜12週:つわりが強くなりやすい時期。症状がほとんどない人もいる。
- 妊娠12〜16週:つわりが徐々に軽くなる人が多い。
- 妊娠16〜20週:多くの人で症状が落ち着いてくるが、長引く場合もある。
なお、妊娠週数は最終月経などを基準に数えるため、排卵や着床の時期によって実際の発育段階と多少のずれが生じる場合があります。
【赤ちゃんへの影響】つわりがないと流産しやすい?医学的な関係を検証
つわりがない妊婦さんが最も気にすることの一つが、胎児への影響や流産との関係です。
まず押さえておきたいのは、つわりがないという理由だけで、赤ちゃんに異常がある、あるいは流産の可能性が高いと判断することはできないということです。
つわりがないこと自体が胎児に悪影響を与えるわけではない
つわりは妊娠に伴って現れる身体症状であり、胎児が正常に発育しているかどうかを直接測る指標ではありません。
米国産科婦人科学会(ACOG)は、妊娠中の吐き気や嘔吐は通常、胎児に害を与えるものではなく、症状があること自体が胎児の健康状態を保証するわけでもないと説明しています。
そのため、つわりがない人が無理に吐き気を心配したり、つわりを起こそうとしたりする必要はありません。
つわりと流産の関係について分かっていること
妊娠中の吐き気や嘔吐と流産リスクについては、医学研究で統計的な関連が報告されています。
2016年にJAMA Internal Medicineに掲載された研究では、過去に1〜2回の妊娠喪失を経験した女性を含む研究対象者について、妊娠中の吐き気や嘔吐と妊娠喪失との関連が調べられました。吐き気や嘔吐がある人では、妊娠喪失の発生率が低いという関連が報告されています。
ただし、この研究結果は、つわりがない人は流産するという意味ではありません。研究対象者の条件や観察された統計的な関連を、個々の妊娠の予後にそのまま当てはめることはできないためです。
また、つわりがあるから流産しないと保証されるわけでもありません。流産には染色体の問題など、さまざまな要因が関係します。
つわりが急になくなった場合はどうする?
昨日まで吐き気があったのに、今日はほとんど感じないというように、つわりの症状が日によって変わることはあります。症状が軽くなったことだけで、直ちに流産を意味するわけではありません。
ただし、つわりが突然なくなったことに加えて、性器出血や強い下腹部痛などがある場合は、産婦人科に連絡してください。
また、流産のなかには自覚症状がほとんどないまま、妊婦健診の超音波検査で初めて判明するケースもあります。反対に、出血や腹痛があっても妊娠を継続できる場合があります。
つまり、つわりの有無や変化だけでは判断できず、必要に応じて超音波検査などで妊娠経過を確認することが大切です。
【受診の目安】つわりがない場合と妊娠悪阻の違いを解説
つわりがない場合、症状がないことだけを理由に緊急受診する必要があるとは限りません。一方、妊娠初期には注意すべき症状もあるため、身体の変化を正しく把握しておくことが重要です。
つわりがない場合の受診目安
次のような症状がある場合は、つわりの有無に関係なく、かかりつけの産婦人科に相談してください。
- 性器出血:少量でも妊娠中の出血は原因を確認する必要がある。
- 強い下腹部痛:特に片側だけの強い痛みや、徐々に悪化する痛みには注意する。
- めまいや失神:強い腹痛や出血とともに起こる場合は緊急性がある。
- 発熱や強い体調不良:妊娠に伴う通常の症状とは異なる原因が隠れている可能性がある。
- 強い不安が続く:症状がないことや体調の変化について心配な場合は、健診を待たずに相談してよい。
特に大量の出血、耐え難い腹痛、意識が遠のくような症状がある場合は、夜間や休日であっても速やかに医療機関へ連絡し、必要に応じて救急受診してください。
こども家庭庁の妊娠中の健康情報でも、妊婦健診を定期的に受けることに加え、異変を感じた場合には担当医や助産師に相談するよう案内されています。
妊娠悪阻とは?普通のつわりとの違い
妊娠悪阻(にんしんおそ)は、つわりが重症化し、食事や水分が十分に取れなくなったり、脱水や栄養障害が起きたりする状態です。
通常のつわりでは、吐き気や食欲不振があっても、ある程度は水分や食事を摂取できる場合があります。しかし、妊娠悪阻では嘔吐が激しく、体重減少や脱水、電解質異常などが生じることがあります。
厚生労働省の母性健康管理に関する用語辞典では、妊娠悪阻について、頭痛、めまい、軽い意識障害、肝機能障害などが現れる場合もあると説明しています。
なお、つわりがない状態と妊娠悪阻は正反対の状態であり、つわりがないからといって妊娠悪阻になるわけではありません。
妊娠悪阻で特に注意したい症状
- 水分を飲んでも吐いてしまう。
- 食事がほとんど取れない。
- 尿の量が極端に少なくなる。
- 尿の色が濃くなる。
- 口の中や皮膚が乾燥する。
- 急激に体重が減少する。
- めまいやふらつきが強くなる。
こうした症状があれば、我慢せず産婦人科に相談しましょう。脱水が進んでいる場合には、点滴や入院による治療が必要になることもあります。
また、厚生労働省は、つわりによって仕事に支障が出る場合の勤務時間短縮、休憩、においの強い環境での作業制限などの配慮についても紹介しています。
【プロの結論】つわりがない人が知っておきたい5つの判断基準
つわりがないことを不安に感じたときは、周囲の妊婦さんとの症状の比較よりも、妊娠経過を客観的に確認することが大切です。特に次の5点を意識しておきましょう。
1. つわりの有無を赤ちゃんの健康診断の代わりにしない
吐き気がある、食べられない、においに敏感になるといった症状は、妊娠に伴う身体の反応です。胎児の心拍や成長を直接確認できるものではありません。赤ちゃんの状態は、医師による診察や超音波検査などで確認しましょう。
2. 他人の妊娠経験を自分に当てはめない
家族や友人が強いつわりを経験していても、自分も同じようになるとは限りません。妊娠ごとに症状が違うこともあります。SNSなどで見かける妊婦さんの体験談は、すべての人に当てはまる医学的な基準ではありません。
3. 吐き気以外の体調変化にも目を向ける
眠気、疲れやすさ、乳房の張り、頻尿なども妊娠初期に見られる変化です。ただし、これらの症状があるかどうかも、胎児の健康状態を確定する指標にはなりません。
4. 定期的な妊婦健診を優先する
症状がなくても、妊婦健診を自己判断で省略しないことが大切です。健診では、妊娠週数や胎児の発育などを確認し、必要に応じて追加の検査や診察を行います。
5. 不安を我慢せず医療機関に相談する
つわりがないこと自体は必ずしも異常ではありません。しかし、妊娠中の不安を一人で抱える必要もありません。症状がないことが気になる場合も、かかりつけ医や助産師に相談できます。
【つわりがない人の特徴】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:つわりがまったくない人もいるのでしょうか?
A1:います。つわりには大きな個人差があり、吐き気や嘔吐をほとんど経験しないまま妊娠期間を過ごす人もいます。つわりがないことだけで妊娠に異常があるとは判断できません。
Q2:つわりがない人は体質的に健康なのでしょうか?
A2:つわりがないことと、身体全体の健康状態が優れていることは別です。ホルモンへの感受性や遺伝的要因など、さまざまな要素が関係すると考えられていますが、特定の健康状態や体質がつわりの有無を決めるわけではありません。
Q3:つわりがないと流産の可能性が高くなりますか?
A3:つわりがないという理由だけで流産の可能性が高いとは判断できません。つわりの有無と流産の関係を調べた研究はありますが、個々の妊娠の状態を症状だけで予測することはできません。出血や強い腹痛があれば医療機関に相談してください。
Q4:妊娠初期に吐き気がなくても赤ちゃんは順調に育ちますか?
A4:はい。吐き気の有無と胎児の発育は同じものではありません。吐き気がなくても妊娠が順調に進む場合はあります。胎児の状態は妊婦健診や超音波検査で確認します。
Q5:妊娠12週になってもつわりがないのは普通ですか?
A5:つわりがないまま妊娠12週を迎えることもあります。つわりの始まる時期や程度には個人差があるため、週数だけで異常とは判断できません。
Q6:つわりが急になくなったら病院に行くべきですか?
A6:つわりは日によって強さが変わることがあります。症状が軽くなっただけで直ちに異常とは限りません。ただし、出血や強い腹痛、めまいなどを伴う場合は早めに産婦人科へ連絡してください。不安が強い場合も相談して構いません。
Q7:つわりがない人は男の子を妊娠している可能性が高いですか?
A7:つわりの有無や強さだけで胎児の性別を判断することはできません。性別とつわりの程度について研究はありますが、個人の妊娠について性別を予測できる確かな方法ではありません。
まとめ:つわりがないことを心配しすぎず、健診で赤ちゃんの状態を確認しよう
つわりがない人の特徴について整理すると、特定の体型や性格、健康状態によって決まるものではなく、ホルモンへの反応、遺伝的要因、母体の感受性など、複数の要素が関係していると考えられています。
特にhCGやGDF15は、つわりの発生や重症度を理解するうえで重要な研究対象です。2024年にNatureで発表されたGDF15に関する研究も、妊娠中の症状に個人差が生じる仕組みを解明する手がかりとなっています。
また、つわりがないからといって胎児に悪影響があるわけではなく、それだけで流産の可能性が高いと判断することもできません。吐き気以外の妊娠初期症状が現れる人もいれば、自覚症状がほとんどない人もいます。
大切なのは、つわりの強さを周囲と比べることではなく、定期的な妊婦健診を受け、赤ちゃんの発育を確認することです。性器出血や強い腹痛などの異常があれば、つわりの有無に関係なく速やかに医療機関へ相談してください。
妊娠中の身体の変化には一人ひとり違いがあります。つわりがないことを必要以上に不安に感じず、自分の体調を大切にしながら、安心して妊娠生活を過ごしていきましょう。
主な医学的根拠・参照資料
- こども家庭庁「妊娠中に気をつけたい症状と病気」
- 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」つわり・妊娠悪阻
- Nature(2024年)GDF15と妊娠中の吐き気・嘔吐に関する研究
- 米国産科婦人科学会(ACOG)「Morning Sickness」
- JAMA Internal Medicine(2016年)妊娠中の吐き気・嘔吐と妊娠喪失の関連研究
これらの資料は、つわりの個人差、ホルモンとの関係、妊娠悪阻の症状、受診の判断を裏付ける主要な根拠です。