捜査一課の特徴として見逃せないのが、科学的な証拠を活用した捜査だ。
警視庁組織規則第37条第4号には、捜査第一課の分掌事務として「科学捜査に関すること」が明記されている。
これは、従来の聞き込みや関係者への事情聴取だけでは解明が難しい事件に対して、科学技術や専門的な鑑定を活用することを意味する。
DNA型鑑定で個人を識別する
科学捜査の代表例がDNA型鑑定だ。
警察庁が2024年3月29日に発出した「DNA型鑑定の運用に関する指針」では、DNA型鑑定を個人識別に活用することが定められている。
対象となる資料には、血液や血痕、唾液、毛髪、皮膚、骨、歯、爪などが含まれる。
こうした資料を分析することで、現場資料から被疑者を特定する手掛かりを得たり、捜査対象から無関係な人物を除外したりできる。
また、DNA型鑑定は高度な専門知識と技能を必要とするため、所定の研修を修了し、資格認定を受けた鑑定員が実施する仕組みになっている。
科学捜査研究所が担う専門的な鑑定
警視庁には、科学的な鑑定を専門とする科学捜査研究所がある。
令和8年度の警視庁採用情報では、鑑識技術の専門分野として、次のような業務が紹介されている。
- 法医鑑定:血液型やDNA型などの鑑定。
- 化学鑑定:薬物などの成分分析。
- 物理鑑定:防犯カメラ画像、音声、機械や電気に関係する事件・事故の分析。
- 文書鑑定:筆跡、印影、印刷物、偽造通貨などの検査。
- 心理鑑定:心理学や生理学の専門知識を活用した鑑定。
- 特殊写真:赤外線・紫外線撮影や証拠品の写真計測など。
これらは、警察官だけでは対応しきれない高度な専門領域を補う役割を果たす。
科学捜査だけで犯人が決まるわけではない
科学鑑定は非常に有力な捜査手段だが、鑑定結果だけで事件の全容が明らかになるとは限らない。
例えば、ある人物のDNA型が現場資料と一致したとしても、それだけで犯罪行為への関与が確定するわけではない。
資料が残された経緯、発見された状況、関係者の供述、その他の証拠などを総合的に検討する必要がある。
科学捜査の価値は、捜査員の推測を裏付けることだけではない。誤った方向に捜査が進まないよう、客観的な証拠によって仮説を検証する点にもある。
【警視庁特命捜査対策室】未解決事件を追い続ける専門組織の実態
捜査一課を語るうえで、特に重要なのが「警視庁特命捜査対策室」だ。
この組織は、過去に発生した重大事件のうち、未解決のまま残されている事件などを検証し、再び捜査する役割を担っている。
警視庁組織規則第64条の8では、刑事部捜査第一課に特命捜査対策室を附置すると規定している。
同条第2項に定められた分掌事務は、次の2つだ。
1. 未解決事件の検証及び捜査
2. 特命捜査に関する事務
また、警視庁が公開する内部規程では、特命捜査第一から第三までの係が設けられている。強行犯に係る特命捜査も担当する。
なぜ未解決事件を再捜査するのか
未解決事件は、発生当時の捜査で犯人を特定できなかった事件だ。
しかし、当時は十分に分析できなかった証拠品が残っている場合や、新たな情報が寄せられる場合もある。
また、科学鑑定の技術や情報分析の方法が進歩すれば、過去の資料から新しい手掛かりを得られる可能性もある。
特命捜査対策室の役割は、単に過去の事件記録を保管することではない。既存の証拠や情報を検証し、事件解決につながる可能性を探り続けることにある。
2026年3月、畑孝博新課長が示した未解決事件への姿勢
2026年3月6日、テレビ朝日系の報道では、警視庁の第81代捜査一課長に就任する畑孝博警視の記者会見が報じられた。
畑警視は、3月9日の就任を前に、被害者のために犯人を検挙するという信念を示した。
特に注目されたのが、過去の未解決事件についての発言だ。
畑警視は、かつて捜査一課の未解決事件を担当していた際、当時から22年前の殺人・死体遺棄事件が解決した経験を挙げた。
加えて、現在捜査中の未解決事件についても、証拠品の見直しや情報の裏取りを徹底する考えを示している。
その基本姿勢を象徴する言葉が、「絶対に諦めてはいけない」という発言だ。
この発言から読み取れるのは、未解決事件の捜査には、過去の捜査資料を継続的に検証する姿勢が欠かせないということだ。
事件発生から長い年月が経過しても、被害者や遺族にとって事件が終わったわけではない。
特命捜査対策室は、その時間の経過によって失われかねない捜査の機会を、組織としてつなぎ続ける役割を持っている。
【捜査一課と捜査二課の違い】2026年の組織体制と歴代課長
警視庁の捜査一課と捜査二課は、どちらも刑事部に所属する捜査機関だが、担当する犯罪の性質が異なる。
簡単に整理すると、捜査一課は殺人や強盗などの強行犯を中心に扱い、捜査二課は贈収賄や選挙違反、企業関係の知能犯事件などを担当する。
捜査一課と捜査二課の具体的な違い
捜査第一課
生命や身体に危害を加える犯罪、強盗、性犯罪、放火などの捜査が中心となる。
捜査第二課
警視庁組織規則第38条では、選挙犯罪、知能犯捜査資料の収集・整備、汚職事件、企業などに関係する知能犯事件、知能犯罪に係る財務解析などを分掌事務としている。
捜査二課には知能犯捜査センターも設けられており、詐欺、背任、横領などの犯罪について、告訴・告発事件の調整や捜査を行う。
捜査第三課との違いも知っておきたい
捜査一課と二課の違いだけでなく、三課との区別も重要だ。
警視庁組織規則第39条では、捜査第三課の担当として窃盗犯罪の捜査、手口捜査、盗品等捜査などを定めている。
そのため、同じ財産に関係する犯罪でも、暴行や脅迫を伴う強盗は一課、一般的な窃盗は三課、詐欺や横領などの知能犯は二課というように、犯罪の性質に応じて担当が異なる。
ただし、詐欺事件はすべて二課というわけでもない。
警視庁では、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺に関する事件について、刑事部の特別捜査課が担当するなど、犯罪の種類や組織規則上の分掌によって所管が分かれている。
2026年の警視庁捜査一課長は畑孝博警視
2026年の人事で注目されたのが、畑孝博警視の捜査一課長就任だ。
テレビ朝日系の2026年3月6日の報道によると、畑警視は3月9日付で第81代捜査一課長に就任した。
就任前は鑑識課長を務めており、未解決事件の捜査経験も持つ。
また、警視庁のアメリカンフットボール部に約12年間在籍した経歴も報じられた。競技経験で培った状況への即応力を、捜査指揮にも生かしたいという考えを示している。
歴代捜査一課長の最近の就任記録
公開報道で確認できる直近3代を整理すると、次のようになる。
- 第79代・佐藤雅一警視:2024年2月19日就任。 被害者のために事件を解決する姿勢を表明した。
- 第80代・岡部誠幸警視:2025年2月17日就任。 闇バイトによる強盗事件への対応や、都道府県警察の連携を課題に挙げた。
- 第81代・畑孝博警視:2026年3月9日就任。 未解決事件の証拠品の見直しや情報の裏取りを重視する姿勢を示した。
この3人に共通するのは、被害者の立場を重視し、事件解決を捜査の中心に置いていることだ。
また、いずれも鑑識課長を経験した人物が捜査一課長に就任している点も興味深い。
現場の捜査だけでなく、科学的な証拠や検視・鑑識の重要性を理解した幹部が、組織全体の指揮を担っていることがうかがえる。
ただし、ここで紹介したのは直近3代の確認できる記録であり、創設以来の歴代課長全員を網羅した一覧ではない。
【プロの結論】捜査一課の本質は「証拠・人・組織」を結び付けること
警視庁捜査一課を理解する際、刑事ドラマのように一人の刑事が事件を解決する姿だけを想像すると、実際の組織の役割を見誤る。
実際には、現場で情報を集める捜査員、事件全体を指揮する管理官、課全体を統括する課長、専門的な鑑定を担う技術職員など、多くの人員が連携して事件解決を目指す。
加えて、捜査一課と二課・三課の担当を分けることによって、犯罪の性質に応じた専門性を確保している。
重要なのは、検挙件数だけでなく、証拠の客観性、捜査の適正さ、被害者や遺族への対応、事件の全容解明まで含めて捜査の質を考えることだ。
【警視庁捜査一課に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:警視庁捜査一課はどんな事件を担当していますか?
A1:殺人、傷害、強盗、不同意性交等、放火、失火などを中心に担当します。誘拐や人質立てこもりなどの特殊事件、科学捜査、未解決事件の検証・捜査にも関係しています。
Q2:警視庁捜査一課と捜査二課の違いは何ですか?
A2:捜査一課は殺人や強盗などの生命・身体に関わる犯罪が中心です。捜査二課は贈収賄、汚職、選挙違反、詐欺、背任、横領などの知能犯事件を担当します。ただし、特殊詐欺などは別の担当部署が扱う場合があります。
Q3:2026年現在の警視庁捜査一課長は誰ですか?
A3:2026年3月9日に第81代捜査一課長に就任した畑孝博警視です。就任前の会見では、被害者のために犯人を検挙する信念と、未解決事件の証拠品を見直す姿勢を示しました。
Q4:警視庁捜査一課の管理官は何をする人ですか?
A4:個別事件の現場指揮官として、事件の全体像や捜査の進捗を把握し、捜査方針を整理して捜査員に指示します。また、検察官との連絡・調整や捜査本部の運営環境の整備も担います。
Q5:特命捜査対策室は未解決事件だけを担当しますか?
A5:未解決事件の検証・捜査に加え、強行犯に係る特命捜査も担当します。警視庁組織規則第64条の8に設置と分掌事務が定められています。
Q6:警視庁捜査一課の科学捜査では何を調べますか?
A6:DNA型、血液、薬物、繊維、画像、音声、文書など、事件に関係するさまざまな資料を専門技術で分析・鑑定します。科学的な証拠を捜査に活用し、事件の真相解明につなげます。
Q7:警視庁捜査一課に入るにはどうすればよいですか?
A7:基本的には警視庁警察官として採用され、警察学校での教育や警察署などでの勤務を経て、刑事部門への配属を目指すことになります。採用後すぐに捜査一課への配属が保証されるわけではありません。
まとめ:警視庁捜査一課は重大事件の解決を担う専門組織
警視庁捜査一課は、殺人・傷害・強盗・性犯罪・放火など、生命や身体に重大な影響を及ぼす犯罪を中心に捜査する刑事部の専門部署だ。
警視庁組織規則第37条には、その担当範囲だけでなく、科学捜査や特命捜査対策室に関する事務も明記されている。
特に注目したいのは、次の3点だ。
- 専門分業:殺人、強盗、性犯罪、火災、特殊事件など、犯罪の性質に応じた担当体制がある。
- 科学技術の活用:DNA型鑑定や画像解析など、専門的な証拠分析を捜査に取り入れている。
- 未解決事件への継続的な取り組み:特命捜査対策室が過去の事件を検証し、新たな解決の可能性を追求している。
2026年3月に就任した第81代課長の畑孝博警視も、未解決事件の証拠品の見直しや情報の検証を重視する姿勢を示した。
警視庁捜査一課の実態は、テレビドラマで描かれる個人の活躍だけでは説明できない。専門知識を持つ捜査員と鑑定技術者、管理官、幹部が連携し、客観的な証拠に基づいて事件の真相を解明する組織なのである。
その役割を知ることは、重大事件のニュースを正しく理解し、警察の捜査活動や未解決事件への取り組みを考えるうえでも重要だ。