2023年5月25日、長野県中野市江部で発生した「長野県中野市4人殺害事件」。散歩中だった地域住民の女性2人と、通報を受けて現場に駆け付けた警察官2人が命を奪われたこの事件は、地域社会に大きな衝撃を与えました。殺人などの罪に問われた青木政憲被告は、2025年10月14日に長野地方裁判所で死刑判決を受けましたが、弁護側が控訴し、現在も刑事裁判は続いています。
事件発生から約3年半が経過した2026年8月時点では、東京高等裁判所での控訴審の日程は公表されていません。一審で最大の争点となったのは、青木被告の精神状態と刑事責任能力です。捜査段階で語られた犯行動機、精神鑑定をめぐる検察側と弁護側の対立、裁判員裁判での判断、そして死刑判決が確定していない現在の状況まで、事件の全体像を時系列で整理します。
【事件の概要】2023年5月25日、長野県中野市江部で何が起きたのか
事件が発生したのは、2023年5月25日の夕方です。場所は長野県中野市江部。地域住民が日常的に行き交う住宅や農地のある地域で、女性2人と男性警察官2人が相次いで殺害されました。
事件の発端は、近隣を散歩していた女性2人が襲われたことでした。通報を受けて現場に到着した中野警察署の警察官2人も襲撃され、4人全員が死亡しました。
殺人などの罪に問われたのは、事件現場近くに住んでいた農業従事者の青木政憲被告です。使用されたのは刃物と猟銃で、事件はその後、被告が自宅に立てこもる事態へと発展しました。
現場周辺では住民の避難が行われ、警察による対応が続きました。翌26日未明、青木被告の身柄が確保され、事件は大きな局面を迎えます。
国家公安委員会委員長の2023年5月26日の記者会見でも、長野県中野市で女性と警察官を含む4人が死亡し、被疑者が翌朝確保された事件として説明されています。
事件で犠牲となった4人
この事件では、地域で暮らしていた女性2人と、職務中だった警察官2人が犠牲になりました。
- 村上幸枝さん:事件当時66歳。地域住民の女性。
- 竹内靖子さん:事件当時70歳。地域住民の女性。
- 池内卓夫さん:事件当時61歳。現場に駆け付けた警察官。
- 玉井良樹さん:事件当時46歳。現場に駆け付けた警察官。
村上さんと竹内さんは、事件当日に近隣を散歩していたところを襲われました。池内さんと玉井さんは、女性が襲われたという通報を受けて現場に到着した警察官でした。
被害者の立場は異なりますが、いずれも突然、日常生活や職務の最中に命を奪われています。事件から3年が経過した2026年5月25日にも、現場には花を手向ける人々が訪れ、犠牲者を悼む姿が見られました。
【事件の動機】青木政憲被告はなぜ犯行に及んだのか
長野県中野市4人殺害事件で、多くの人が疑問に感じているのが青木政憲被告の犯行動機です。
捜査段階の報道によると、青木被告は女性2人について、自分が「ぼっちとばかにされている」と感じていた趣旨の供述をしていたとされています。
つまり、近隣住民から悪く言われているという認識が、女性2人に対する犯行の背景にあったとみられています。ただし、これは被告側の認識や捜査段階の供述に関する情報であり、実際に女性2人がそのような発言をしていたことを意味するものではありません。
妄想症と犯行動機の関係
この事件では、青木被告の精神状態が捜査段階から注目されていました。
長野地検は2023年8月から11月にかけて、刑事責任能力を調べるための鑑定留置を実施しました。その後、同年11月16日に4人に対する殺人などの罪で起訴しています。
2025年の裁判では、精神鑑定を担当した医師らが証人として出廷しました。検察側の依頼による鑑定医は、被告には妄想症の症状があったものの、女性2人を攻撃するかどうかの判断まで妄想に支配されていたわけではないとの趣旨を証言しました。
一方、弁護側の依頼で鑑定した医師は、統合失調症の症状が犯行に強く影響していたとの見解を示しました。
このように、精神疾患の存在そのものだけでなく、その症状が実際の行動や判断にどの程度影響したのかが、裁判の重要な争点になりました。
警察官2人への犯行動機は女性2人の場合と異なるのか
裁判で検察側が示した説明では、女性2人に対する犯行と警察官2人に対する犯行では、動機の形成過程が異なるとされました。
検察側は、女性2人への犯行については妄想症が動機形成に関係した一方、警察官2人への犯行は逮捕などを避ける行動であり、妄想が動機の形成に影響したわけではないと主張しました。
この区別は、精神疾患が4人それぞれへの犯行にどのように作用したかを検討するうえで重要な論点でした。
なお、青木被告は裁判員裁判で基本的に黙秘を続けました。そのため、捜査段階の供述や精神鑑定、証拠、証人の証言などが、事件の背景を判断する重要な材料になりました。
【事件から控訴まで】裁判員裁判と死刑判決の時系列まとめ
事件発生から一審判決、控訴までには約2年5か月が経過しています。刑事責任能力を調べる鑑定留置、公判前整理手続き、裁判員裁判を経て、長野地裁が死刑判決を言い渡しました。
主な出来事を時系列で整理すると、次のようになります。
| 時期 | 出来事・関係者 | 確認されている内容 |
|---|---|---|
| 2023年5月25日 | 事件発生 | 中野市江部で女性2人と警察官2人の計4人が殺害される。 |
| 2023年5月26日 | 青木被告の身柄確保 | 立てこもりの後、未明に身柄を確保される。 |
| 2023年8月〜11月 | 精神鑑定 | 刑事責任能力を調べるため鑑定留置が実施される。 |
| 2023年11月16日 | 起訴 | 4人への殺人と銃刀法違反などの罪で起訴される。 |
| 2025年9月4日 | 長野地裁・初公判 | 裁判員裁判が始まり、被告は「黙秘します」と述べる。 |
| 2025年9月24日 | 検察側の論告・求刑 | 検察側が死刑を求刑する。 |
| 2025年10月14日 | 長野地裁・判決 | 完全責任能力を認め、青木被告に死刑を言い渡す。 |
| 2025年10月27日 | 弁護側が控訴 | 心神耗弱があったとの主張を理由に控訴する。 |
| 2026年8月時点 | 東京高裁 | 控訴審の日程は未定。死刑判決は確定していない。 |
2025年9月4日、裁判員裁判が始まる
長野地方裁判所で青木被告の裁判員裁判が始まったのは、2025年9月4日です。
初公判で裁判長から起訴内容について確認された青木被告は、認否を明らかにせず、短く次のように述べました。
「黙秘します」
この発言は、初公判以降の審理にも影響しました。被告本人から事件の詳細な説明を得ることが難しく、検察側と弁護側の主張、精神鑑定の内容、証人尋問などを通じて責任能力が検討されました。
2025年9月24日、検察側が死刑を求刑
審理が進むなか、検察側は4人が死亡した結果の重大性や犯行の悪質性を指摘し、死刑を求刑しました。
これに対し、弁護側は心神耗弱の状態にあったとして、死刑を回避するよう求めました。
2025年9月26日に審理が結審し、判決公判は10月14日に指定されました。
2025年10月14日、長野地裁が死刑判決
2025年10月14日、長野地裁は青木被告に対して死刑を言い渡しました。
裁判所は、妄想症の症状があったことを踏まえながらも、事件当時、善悪を判断し、自分の行動をコントロールする能力は保たれていたと判断しました。
つまり、弁護側が主張した心神耗弱状態を認めず、完全責任能力があったとの結論に至ったのです。
検察側の求刑どおりの判決となりましたが、弁護側はこの判断を不服として、10月27日に控訴しました。
【裁判最大の争点】刑事責任能力・精神鑑定と心神耗弱の主張
この事件の裁判を理解するうえで欠かせないのが、刑事責任能力という法律上の考え方です。
刑事裁判では、被告が精神疾患を抱えていたかどうかだけでなく、犯行当時に自分の行為の善悪を判断する能力や、その判断に従って行動を制御する能力がどの程度あったかが問題になります。
心神喪失と心神耗弱の違い
刑法第39条では、心神喪失と心神耗弱について、それぞれ異なる法的効果が定められています。
- 心神喪失:犯行時に責任能力を欠いていたと認められる場合、刑事責任を問わない。
- 心神耗弱:責任能力が著しく低下していたと認められる場合、刑が減軽される。
- 完全責任能力:精神疾患が存在していても、善悪の判断や行動制御の能力が保たれていたと判断されれば、通常の刑事責任を問うことになる。
ここで重要なのは、精神疾患の診断があることと、法律上の責任能力がないことは同じではないという点です。
医師による精神鑑定は専門的な医学的評価を提供しますが、最終的に刑事責任能力を判断するのは裁判所です。
検察側と弁護側の主張はどこが違ったのか
今回の裁判では、精神鑑定をめぐって検察側と弁護側の見解が大きく対立しました。
検察側の主張は、青木被告には妄想症の症状があったものの、犯行の判断や行動を制御する能力は保たれていたというものです。妄想は女性2人への犯行の動機形成に関係したとしても、実際の行動を決定づけたわけではないと説明しました。
弁護側の主張は、被告が統合失調症の症状によって妄想に強く支配されており、善悪を判断して、その判断に従って行動する能力が著しく低下していたというものです。
双方の主張を整理すると、次のようになります。
- 検察側:精神疾患の症状は存在したが、完全責任能力があった。
- 弁護側:精神疾患の影響が大きく、心神耗弱状態だった。
- 長野地裁:弁護側の心神耗弱の主張を退け、完全責任能力を認定した。
なぜ長野地裁は完全責任能力を認めたのか
長野地裁が重視したのは、精神疾患の有無だけではありません。犯行当時の被告の判断能力や行動制御能力、事件前後の行動などを総合的に検討しました。
判決では、妄想症の症状が犯行の背景にあったことを考慮しながらも、それによって善悪の判断能力や行動をコントロールする能力が著しく失われていたとは認めませんでした。
また、量刑については4人の生命が奪われた結果の重大性や犯行態様などを重く評価しました。精神障害に関する事情も含めて検討したうえで、死刑を回避すべき事情は認められないと判断しています。
この判断によって、一審では完全責任能力が認定され、求刑どおりの死刑判決が言い渡されました。
【2026年8月最新】東京高等裁判所の控訴審はどうなっているのか
2026年8月時点で最も注目されるのは、青木政憲被告の控訴審がいつ始まるのかという点です。
2025年10月14日に死刑判決が言い渡された後、弁護側は同月27日に控訴手続きを行いました。これにより、事件は東京高等裁判所での控訴審に進むことになりました。
弁護側が控訴した理由
控訴の主な理由は、一審判決における刑事責任能力の判断に対する不服です。
弁護側は、青木被告に心神耗弱があったと主張し、精神疾患が犯行に与えた影響を改めて争う姿勢を示しました。
FNNプライムオンラインなどの報道によると、判決後の接見では、青木被告が当初、控訴したくないという意向を示していたものの、最終的には弁護団の考えに賛同し、控訴に至ったとされています。
弁護側にとっては、死刑という極めて重大な刑罰が言い渡された以上、責任能力の判断を上級審で改めて検討する必要があるという立場です。
2026年8月時点で控訴審の日程は未定
長野放送が2026年5月25日に伝えた事件発生から3年の報道では、青木被告側が控訴しているものの、次の裁判の日程は決まっていないとされています。
同日の報道では、遺族が早期に審理が始まることを願っていることも伝えられました。
2026年8月時点でも、公開されている情報からは東京高裁の控訴審の具体的な期日や判決予定日は確認できません。したがって、現在の法的な状況は、一審で死刑判決を受け、弁護側の控訴によって上級審の判断を待っている段階です。
一審の死刑判決は、まだ確定していません。
ここは事件の最新情報を確認する際に、特に注意したいポイントです。死刑判決が言い渡されたことと、死刑が確定したことは法律上まったく異なります。
控訴審で注目される3つのポイント
今後の東京高裁での審理では、主に次の点が注目されます。
1.刑事責任能力の再評価
一審で退けられた心神耗弱の主張について、弁護側がどのような根拠を示すのかが焦点です。精神鑑定の評価や犯行当時の精神状態について、改めて検討される可能性があります。
2.一審判決の判断が維持されるか
東京高裁が長野地裁の事実認定や法的判断をどう評価するかが重要です。一審判決が維持されるのか、それとも判断が変更されるのかは、控訴審の審理を待つ必要があります。
3.遺族の思いと司法手続きの進行
4人の犠牲者の遺族にとって、事件の裁判が続いていることは、長期にわたる精神的な負担にもつながります。2026年5月の事件発生3年の節目に、遺族が早期の審理開始を願う思いを示したことも報道されています。
控訴は法律で認められた手続きであり、その権利と遺族の心情は別々に尊重される必要があります。司法判断の行方だけでなく、事件によって人生を変えられた人々の時間にも目を向ける必要があります。
【よくある質問】長野県中野市殺人事件に関するFAQ
Q1:長野県中野市4人殺害事件はいつ、どこで発生しましたか?
A1:2023年5月25日、長野県中野市江部で発生しました。散歩中の女性2人と、現場に駆け付けた警察官2人の計4人が殺害された事件です。
Q2:青木政憲被告の犯行動機は何だったのですか?
A2:捜査段階では、女性2人から「ぼっちとばかにされている」と感じていた趣旨の供述が報じられています。精神鑑定では妄想症の症状も確認されました。ただし、裁判では被告が黙秘を続けたため、事件の背景や心理については検察側と弁護側で異なる説明が示されました。
Q3:青木政憲被告は死刑が確定したのですか?
A3:いいえ。2025年10月14日に長野地裁で死刑判決が言い渡されましたが、同月27日に弁護側が控訴しました。2026年8月時点では東京高裁の控訴審の日程は未定で、死刑判決は確定していません。
Q4:裁判で争われた心神耗弱とは何ですか?
A4:精神障害などの影響で、犯行時に善悪を判断したり、その判断に従って行動したりする能力が著しく低下していた状態を指します。刑法第39条では、心神耗弱者の行為は刑を減軽すると定められています。一審では弁護側の主張が退けられ、完全責任能力が認定されました。
Q5:今後の裁判はどこで行われますか?
A5:弁護側の控訴を受け、東京高等裁判所で控訴審が行われることになります。具体的な審理日程や判決時期は、2026年8月時点では公表されていません。
まとめ:長野県中野市4人殺害事件の今後と注目すべき司法判断
長野県中野市4人殺害事件は、2023年5月25日の発生から、捜査、精神鑑定、起訴、裁判員裁判を経て、2025年10月14日の一審死刑判決に至りました。しかし、弁護側が心神耗弱の主張を理由に控訴したことで、司法手続きは現在も続いています。
この事件の核心は、4人の尊い命が奪われたという重大な結果だけではありません。精神疾患が犯行にどの程度影響したのか、刑事責任能力をどのような証拠から判断するのかという、刑事司法制度に関わる重要な問題も含んでいます。
2026年8月時点では、東京高裁の控訴審日程は未定であり、死刑判決も確定していません。今後は、一審で認定された完全責任能力について、上級審がどのような判断を示すかが焦点になります。
事件の続報を確認するときには、次の3点を区別することが大切です。
- 判決と確定の違い:一審で死刑判決が出ても、控訴中であれば刑は確定していない。
- 精神疾患と責任能力の違い:医学的な診断と法律上の責任能力は、同じ意味ではない。
- 報道時点の違い:控訴審の日程や判断は変わる可能性があるため、最新の裁判情報を確認する必要がある。
4人の犠牲者と遺族の思いを忘れることなく、今後の控訴審でどのような司法判断が示されるのか。事件の真相と責任の所在をめぐる審理は、引き続き注視されます。
主な事実確認資料
- 国家公安委員会委員長記者会見(2023年5月26日)。事件発生時の公式説明。
- 信越放送・TBS NEWS DIG。裁判員裁判、精神鑑定、双方の主張。
- 長野放送・FNNプライムオンライン。一審判決、控訴、2026年5月の遺族の状況。
- e-Gov法令検索。刑法第39条。